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最高裁判所第一小法廷 昭和43年(行ツ)80号 判決

東京都台東区鳥越二丁目二番一〇号

上告人

株式会社 三橋

右代表者代表取締役

三橋岩次郎

右訴訟代理人弁護士

吉岡秀四郎

緒方勝蔵

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被上告人

東京国税局長

中橋敬次郎

右当事者間の東京高等裁判所昭和三九年(行コ)第一五号審査決定取消等請求事件について、同裁判所が昭和四三年五月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉岡秀四郎、同緒方勝蔵の上告理由第一点について。

上告人の所論主張および原判決の引用する第一審判決の判示事実と原判決の理由の説示とを彼此対照すれば、原判決は、明示的ではないけれども、上告人の所論主張を採用できないとの判断を示しているものと解することができないわけではない。それゆえ、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について。

原判決の確定した事実関係のもとにおいては、被上告人において上告人の本件確定申告は青色申告ではなかつたと主張することが、信義則ないし禁反言の原則に違反するものとは、とうてい認めることができない。したがつて、所論主張を容れなかつた原審の判断は相当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第三点について。

本案の裁判に対する上告の理由がないときは、訴訟費用の裁判に対する不服の申立が許されないことは、当審の判例とするところである(昭和二七年(オ)第七三四号同二九年一月二八日第一小法廷判決・民集八巻一号三〇八頁、昭和二六年(オ)第八〇三号同二九年七月二七日第三小法廷判決・民集八巻七号一四四三頁、昭和二八年(オ)第一二四七号同三〇年七月五日第三小法廷判決・民集九巻九号一〇一二頁)。そして、本件の本案に対する上告が理由のないことは他の所論について判断するとおりであるから、論旨は採用のかぎりでない。

同第四点について。

所論の点に関する原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決を非難するものであり、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 岸盛一)

(昭和四三年(行ツ)第八〇号上告人株式会社三橋)

上告代理人吉岡秀四郎、同緒方勝蔵の上告理由

第一点 原判決は上告人(被控訴人)の主張を判断しない不当がある。

一、原判決は其判決理由中

「以上、(1)ないし(3)に説示したところによれば、被控訴人の本件法人税の確定申告は、予め青色申告書提出承認申請書を提出して承認を受けていない点からいつでも、青色申告を提出し、(なしたもの)でない点からいつでもとうてい青色申告であると認めることはできない。したがつて、本件再更正処分の通知書に理由が付記されてないこと、本件審査決定に付記された理由が具体的でないことを事由に、右処分および決定が、違法であるとする被控訴人の主張は、その前提を欠き、失当たるを免れない」(原判決一七丁裏-一八丁表)

二、然るに上告人は、第一審及原審に於ても、昭和二七年度の申告は、当時の環境により、青色申告承認の存否、申告、形式の有無に不拘、之を青色申告として取扱ふと謂う意味の申出てあつたが為めに確定申告を為したものであり、従て政府(国税局長)が其都合の為め勝手に其形式等に付て異議を今更主張するは、恰も民訴法上の責問権を放棄したものが、其責問を許されます。又、禁反言的で信義即に反する等の要式不備を主張し得ないことを主張したものであるが、原判決は此主張を無視して採用して審理しなかつた不当がある。即ち

(一) 第一審に於ては原告(上告人)の昭和三五年九月十五日付第二準備書面、第一章の第三項の終に、

「本件は被告に於て自己の取扱不備の責を免がれんが為め、不徳にも此形式の不備を持ち出して居るのである。」

他の一面此行為は禁反言に相当し、自己自からの便宜に其行為を取消し、之を反言するので、恰も穽に陥れたと同様で信義則上許されないものである。(記録 丁)。

(二) 第二審に於ては、被控訴人(上告人)の昭和三九年十月二八日付、第一準備書面、第二要式不備の青色手続の効力、(二)相対的効力の第一項の(2)中、

「信義則上有効、右の要式違反が前述の理由に基くものとすれば、税務署に於て其利益の便宜の為めに其要式を略せしめ、其不利益となるや、直ちに其手掌を返して、其無効を主張するは、英米法上の禁反言に似て、道義上は許さる可きではない。之を我法律に照せば、同様信義則に反することゝなるから、民法第一条に基いて許されず、又其要式欠の異議を主張するは、異議権の濫用として同様許されないものである。而して之が公法的の取扱を受く可きものとしても、公法上の正義も亦其根底に於ては道義信儀に基くものであるから、此の信義違反は民事と同様に取扱う可きものと解する。仍て控訴人の主張は不当である」。(記録 丁)

と主張して、本件二七年度の確定申告は、之が青色申告の承認の有無、又其申告手続が青色式の要式を具備したと否とに不拘、之に付被上告人(国税局長)が、要式不備を理由に異議を主張するは不当であると抗争するのである。

三、但し青色申告手続は要式手続であるから、右の異議を主張しない特約の効力の問題は疑があるかも知れないが、併し此契約は、契約当事者間に於て脱法手続を為すことを目的とせず、超法手続を為さんとするが為めであるから左の理由で差支えないものと解する。

青色申告に付、要式手続を要する理由は、税務署と納税者の双方の利益の為めである。併して他の要式手続の場合でも、手続が面倒で、時期に間に合わず、双方に之を略しても利益こそあれ不利益ない場合は、民間に於ても官庁に於ても、又民間と官庁との間に於ても、日常多々類似の取扱を為して居る処である。

又脱法とは普通に法を潜つて不正を為さんとする場合であるが超法とは法の定め以上に好効果を生せしめんとする場合である。

青色申告手続は戦後我国が米国より命ぜられた手続で、官民共未だ不慣れで而も面倒で出願に付ては計理士等を要して、多額の費用を要し、当時出願者は少なく我政府は米国に対する面目上一日も早く多数の出願者を求めんとして居た場合であれば、政府が其要式を略して青色手続として取扱を為したことは、顕著なる事実で善良なる苦心で、当事者間に於て利益こそあつて不利益なく、何等不正に脱法する意思なく、超法の目的であり、仍て此契約は有効と見るも毫も差支えなかる可き筈であり、而して若し然らざるとするも其契約は何等公序色俗等に反する処がなく、仍て仮に客観的取扱として無効と見る可きものとするも、当事者間の主観的取扱としては有効と見る可きものである。仍て政府(国税局長)は其要式不備を理由に、其異議を主張することは出来ないものと解する(第一審前記の第二準備書面第一章三項記録 丁原審前記第一章準備書面第三章記録 丁にも主張)。(原審昭和四二年六月九日付上告書参照)

四、而して税務署や国税局等が本件二七年度の確定申告を青色手続として取扱つた事実は、原審前記の昭和三九年一〇月二八日付、第一準備書面の第一章第一項中に明記した様に、

(一) 昭和三二年十二月二八日の、青色申告としての更正処分の通知(甲一ノ一)

(二) 昭和三二年十二月二八日の、青色申告としての再調査請求の受理(甲第 号証)。

(三) 昭和三三年三月十二日の、青色申告としての再調査棄却の通知(甲一ノ二)

(四) 昭和三二年四月五日の、青色申告としての審査の請求受理(甲九号)

(五) 昭和三二年十一月二七日の、青色申告承認の取消の通知(甲六号)

を見れば明瞭であり、而して上告理由第二点第四項中に記載の各主張に照せば(之をも援用する)一応明白であるのである。

仍て原審に於ては、此青色として取扱ある事実を、前提として審理する場合に於ては、職権としても(法律問題であるから)二七年度の再更正決定が(要式不足に不拘)青色として取扱う可きか否かを、明らかにす可きに不拘、被控訴人(上告人)が第一審第二審を通じて、事件の中心として極力主張し弁論して来た事実を無視して此主張を採用せずして判決せられたることは、事実不採用の不当及び之を除いて審理せられた、審理不益の不当あるものと、謂わなければならない。(原審昭和四二年六月九日上申書参照)

第二点 原判決は本件二七年度の再更正の処分が、青色手続として確定した居たにも不拘、之を白色取扱として判定した不当等がある。(即ち、主張を取上げず審理不尽の不当がある)

一、本件昭和二七年度の再更正処分(甲一ノ一)は、前記理由第一点に於て主張した様に、要式不備であつても、甲第一号証ノ三の審査決定によつて、青色手続として決定せられたものである。

従つて之が苟も青色申告として取扱われた以上、税務署側としては、此決定に対しては不服申立を為すの手段がなければ、此決定は税務署側の為めには、確定したものと謂わねばならない。

二、但し此決定に対しては納税者側に於ては行政裁判上の不服の訴(本件訴訟の如き)を提起することが出来るが、併し之が為めに税務署側に於ては右確定の決定の効力を否定して其れと異なる効力を主張することは出来ない。(青色と確定した場合、其れが誤として行訴で白色としての効力を主張するが如き)、之か民訴に於ては、誤判の効力と謂う処である)。然らざれば税務署側に利益の、税務決定を、税務署側自身が否認して、其手続を無意味ならしむるは制度の矛盾であり、又反言を許すは人道及信義に反するからである。

仍て若し第一点の理由がないとしても、本件に於ては被上告人は、本件手続に於ては白色の手続であることを、主張することは出来ない。(尚お別紙添付美濃部達吉博士の学説参照)

三、而も青色承認手続と、更正手続とは其取扱を異にし、別個の手続であれば、其承認手続が未だなかつたに不拘、更正手続に於て其承認手続があつたと誤認し、又はあつたと見做し、或は取扱つて決定された以上は、之は恰も鉱業権登録の有無を誤認又はあつたと為して判決をせられた場合と同様で、苛も其判決が確定した場合は、早や其登録が事実なかつたとしても、当事者間に於ては其登録のなかつたことを理由に、再び其鉱業権の存否の効力を争うことが出来ないと同様である。換言せば、誤判の効力は当事者間に於ては、法律を超越して其効力を優先するからであり、仍て本件審査決定が税務署側に確定した以上は其要式の不備に基づいて青色手続の取扱の不当を抗争することは出来ない。

此点に付き被控訴人の昭和三九年十二月九日付、第二準備書面の申立、並に(原審三九年十二月九日付、第二準備書面を援用且御参考せられ度い)。

四、第一点の第四項に於て申立てた、二七年度の確定申告が青色取扱を為されたとの主張を一層明かにすれば、左の通りである。

(一) 昭和三二年一一月二七日、二六年一月二五日より二六年九月三〇日迄(二六年の約下半期)分の事業年度以降分の(二七年度分も)取消決定を為し(甲六)

(二) 昭和三二年一二月一六日、右の青色承認取消に対する異議の申立を為し、受理せらるゝ(甲七)

(三) 昭和三二年三月十二日、右異議(再調査)申立は却下せらるゝ(甲八)

(四) 昭和三三年四月五日、右却下申立に対する異議(審査請求)申立て、受理せらるゝ(甲九)

(五) 昭和三四年三月三一日、右再調査の決定は全面的に取消され、青色手続承認は全面的回復せらるゝ(甲一〇)

右により、昭和二七年度の申告が、青色手続として取消されて居れば、青色として取扱われて居たことは明かである。(但し其承認等の要式がなかつたとしても)而して又甲第一〇号で全面的に其取消が取消されたなれば、二七年度分が青色手続に回復せられたことも亦明瞭である。

又、甲第一〇号証中の決定主文には、

「(決定)再調査の決定には誤りがありますので、青色申告書提出承認の取消処分は取消します」

として全面的に取消処分は取消されて居るのである。

而して同号証の理由中、

「自昭和二六年一月二五日至昭和二六年九月三〇日事業年度分以降の青色申告、承認の取消は誤つていると認める」

と記載してあり、反面二七年度の取扱は青色で差支えないことを、却て裏書せられて居るのである。

而して右の確定に関する事実及び抗弁は、上告人に於ては原審被控訴人(上告人)の昭和三九年一〇月二八日付準備書面第一章の終に於ても極力主張して居る処である。

五、更に、注意す可きは原判決理由第一六丁裏には、

「昭和二六年九月二三日に、自昭和二六年一月二五日至昭和二六年七月二四日事業年度の中間申告(註、二六年期間分)をするにあたり、欄外に(白色)と表示した青色の申告書を用い、これを白色の申告書の代用とした事実が認められる」

とあるが、之は乙第一六号証の欄外の(白色)なる記載ならんも、此白色なる記載は何人の記載なるか不明であるが、(之は税務署に於て記載したるものと思われる)此記載に照し、其白色とある記載に不拘、前記の如く税務署が其れ等の申請を、青色として取扱い居たことは、当時の環境に照し、要式に不拘ず便宜的青色の取扱を為し居たものであることを、充分に想像せらるゝのである。

以上の各主張に照し、二七年度の昭和二七年一〇月二七日付最初の更正処分通知の取扱も(乙号)亦青色手続として取扱つて居たものであることが、同様充分想像せらるゝ。

六、然るに原審判決は、主として青色申告としての要式の不備なる事情のみを屡々主張し、此の要式の不備の場合と雖も、最後の審査決定に於て青色手続として取扱われ確定した場合の抗弁不能の主張を無視したものであり、而して被控訴人(上告人)は、此れに付て度々弁論し、又右準備書面に於て極力主張した処であり(原告の三九年十二月九日付第二準備書面等)(原審昭和四二年六月九日付上申書参照)而も法律論でもあれば、職権に於ても之を調査しなければならない処であるに不拘、原審は此の主張を取上げず、又審理しなかつた、審理不尽理由不備の失当があるのである。

七、更に之を追言すれば、若し仮に右の二七年度の申告に付て、税務署側に於て錯誤による青色手続の取扱を為したとするも、其れは重大なる錯誤であり、民法第九五条但書同様、公法的取扱に於ても解す可きものと思料する。

又白紙申告を青色申告と誤解する如きは、之は恰も裁判所に於て決定手続を判決手続と誤解するにも勝る、職務執行上の重大なる過失と解する。

而して此等の抗弁は上告人は第一審以来、其の昭和三五年九月一五日付第二の準備書面第一章の最後に於て、(記録 丁)又原審昭和三九年一〇月二八日付の第一準備書面第四章(記録 丁)に於ても、極力主張し又度々弁論した処であり、(原審昭和四二年六月九日付、上申書参照)又法律問題であれば職権に於ても(若し此問題を論ずるの必要あるに至れば)取扱う可き問題であるから、税務署側の錯誤の場合と雖も、被上告人(税務署側)は、其錯誤による青色取扱の無効を主張することは出来ない。但し税務署側は未だ此問題を主張する段階ではないが為念め一言追言して置く。

第三点 原判決は、本件訴訟の訴訟費用全部を、被控訴人(上告人)に、負担せしめた不当がある。

一、原判決中、主文中には

「訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」

と判示せられた(原判決一丁裏)。去れど同判決の最後の結論(判決二七-八丁)に於ては、其の説明がない。

二、本件第一審の訴状には、其の請求趣旨に於て、税務署側の処分や決定の取消を求めんとした分は、昭和二七年度分、二八年度分、二九年度分、三〇年度分の四ケ年間分である。(訴状一-三丁参照)

三、然るに訴の中途に於て、被告(被上告人)は青色申告の更正処分通知に理由の附記がないことを認識して、右の二八年、二九年、三〇年分は、其処分や決定を自身取消して、二七年度分のみに付て争い続けた(第一審判決参照)。

四、従つて、第一審判決は、右三年分に付ての、取消を求むる処分や決定は其目的消滅したとして、原告(上告人)に敗訴を命ぜられたにも不拘、訴訟費用は其分に付ても、被告(被上告人)の負担と判決せられた(一審判決主文参照)。而して其理由は民訴第八九条、第九〇条の適用に基づくものである(第一審判決理由の最後参照)。蓋し被告の処分や決定の取消は、原告よりの訴の効果に基づくものであればそれは、事件終了の前の原告の勝訴に基づくものであり、同第九〇条の例外負担行為として、被告をして其責に任せしめたのである。

五、然るに、被上告人(国税局長)の控訴状には、其の控訴趣旨には、

原判決中「原告その余の請求はこれを棄却する」との部分を除き、その余を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

との判決を求めて居る(控訴状、控訴趣旨参照)。

而して其控訴額を見ると、訴額金二七七、九三〇円とあるので(控訴状一丁裏)、原告の訴額金五七二、〇〇〇円也(訴状一丁)に比して遙に少なく、請求趣旨の二七年度分の二七七、九三〇円の分のみ訴額と同様で、明かに一分の控訴のみであることが想像せらるゝ。

六、原審判決の事実摘示中冒頭には(判決二丁)、単に前記の控訴の趣旨の記載を其まゝ掲上してあるのみで、一部の控訴であるか全部の控訴であるかは明記せられていないが前述の控訴額等に基づき、二七年度分のみに付ての一部の控訴として取扱われたものと解する。

果して然らば、原審は単に二七年度分に付ての事件であるから(又事実其通りの取扱いであるから)訴訟費用も亦本来二七年度分のみに付て、敗訴の控訴人(上告人)に対しては負担せしめられる可きである。

七、併し相手方は、控訴趣旨中「原告のその余の請求は棄却する」との部分(註、被告の勝訴分)を除き、その余を取消す」と申立てゝ居るから、二八、二九、三〇年度分の敗訴した訴訟費用の部分に付ても、或は不服を申立てゝ居る疑がある。

又原告が同一被告に数個の請求を併合して訴求した場合(民訴第二二七条の客観的併合)其の一請求の分のみに付き控訴した場合でも、其他の部分に付ても未だ判決は確定しないとの説もあり、(請求原因を異にする分に反対説もあるが)仍て未確定説に基づくときは、原判決の主文のみでは、本件二七年度以外の、他の二八年、二九年、三〇年度分の訴訟費用に付ても、其訴訟費用は被控訴人(上告人)の負担の如く解せらるゝ様である。果して然らば原判決は此点に付て、第一審判決が之を被告(被控訴人)に負担せしめたるものを何故に、変更して被控訴人に此分迄で負担せしめられたか、其理由を掲げない理由不備の失当がある。仍て此点に付き原判決は、亦破棄を免れないのである。

第四点 原判決は、更正、再更正と重なる処分通知書作成に関する方法に付ての、其根拠を明かにしない不当、及び其他取扱上の不当がある。

一、原判決理由中に

「右の納税義務者の申告、税務官の更正、および再更正は、それぞれ別個独立の行為として併行し、後の更正等の効力はこれらの処分によつて増加し、又は減少した部分の税額に関してのみ生ずるが、(たとえば増額更正の場合には、増差税額に関する部分についてのみの、効力を生ずる)。もともと申告更正、および再更正は一個の納税義務の内容の具体化のためになされるものであるから、前の申告等に続いて後の更正等がなされることゝなるのである」(原判決二二裏-二三頁)。

等とあり、原審は更正、再更正処分に於ける所得や、税額は、再更正通知書にも最初からの申告や、更正及び再更正の合計額を重ねて記載す可き意味の主張がある。併し之は税法又は附属法の何れの法条に基づくが、原審判決中には根拠法規を明かにしない。

二、最も国税通則法第二九条には、右判決の主張をも想像せらるゝ規定はあるが、此法規は昭和三七年四月二日、法律第六六号の定めであり、之に反し本件の更正、再更正処分通知書は昭和二七年乃至三二年度中の処分であれば、右規定を本件に直ちに適用することが出来ない。又之を遡及し、又は其前の規定にも同様なる規定の存したことを明かにせられない以上は、原審判決は而も旧時の定めに付き、理由の根拠を明かにしない理由不備の失当がある。

三、蓋し昭和二七年度当時の法人税法第三一条の二や其の但書等を略記すれば、

「三年を経過した日(中略)以降において、これ(更正処分)をなすことが出来ない。

但し、詐偽其他の不正行為により、法人税を免れ(中略)。法人税額(中略)の基礎となつた欠損金額については、この限りでない」

と規定せられて、不正行為による部分に付いては其れのみに三年後も追加更正処分を為させ、万事都合よく仍て、何故に斯の如き処分の通知書が、不都合と謂う可きか原判決の主張は理解に窮する処である。

仮に裁判所の主張の様なる形式にて取扱うことが許されたとしても、上告人主張の形式が許されることも別に不当す可き理由はなく両者を併用するも毫も差支えないものと解する。(例えば、控訴判決に於て、原判決を取消して其れと異なる判決をせらるゝも、又原判決を変更せらるゝも、其何れをも許されるものゝ如きである)。

四、而して若し再更正に全面的の金額を記載す可きを標準とすれば、三年後に再更正の総金額中にも、三年中に更正す可き誤算、又所得としての意見を異にする金額(詐偽ならざる差異)、及三年間のみにしか許されない不正ならざる行為の金額を混入して、其等の不正ならざる部分を三年中に更正を為すことを忘れた部分迄をも記入して、其の不備を癒せんとするの手段に用いらるの恐もあり、又其計算も頗る複雑面倒である。仍て此種の形式は税務署の為めには都合がよくも、納税者の為めには頗る迷惑である形式にある。従て如斯き書式のみが絶体的に法文上定まつた書式であれば兎も角、単に前記三七年度の国税通則法第二九条の如き消極的の規定の書き方では、原判決主張の累加算方式が許されるとするも、亦上告人主張の追加決定方式が許されない理由はない。

五、而して昭和二七年や三二年前には如何なる規定が存したるも明かにせず、其前のことに迄も右の三七年発行の規定を、而も半解で主張せんとする原判決は不当である。

而して若し上告人主張の追加更正をも許されたものとすれば、其れより進んで各種の被控訴人(上告人)主張の法理の説明に及ばなければならないから、(原審昭和四十年五月二六日付第五準備書面の、記載其他、昭和四二年六月九日付上申書の記載等参照)。原審は此等及其後の各主張をも無視し、判決せられた不当がある。

右の通り理由申立てます。

参考学説

職権に依る行政行為の取消

美濃部達吉博士

一、仮令行政行為が其の成立の初に於ては法令に違反し又は公益に適せざるものなりしとするも、其の既に成立したる後に於て之を取消すことは必ずしも自由ならず、(同氏著行政法撮要上巻二〇七頁)

(中略)

二、確定力ある行為。行政行為の中にも裁判判決と等しく、一たび確定したる後は一事不再理の原則が行はれ、特別の例外を除くの外同一事件に付き再び審査することを許さず、随て原則として全く之を取消すことを得ざるものあり、之を確定力ある行為と謂う。此の種の行為は仮令違法なりとするも、上訴手段(異議申立訴願、行政訴訟)に依りて之を争うことを許さるゝの外、利害関係者は其変更すべからざることを要求する権利を有し、特別の理由ある場合を除くの外職権に依る取消を許さざるものなり。(同書二〇七-八頁)

(中略)

三、民事訴訟法の再審に関する規定は行政行為に付ても之を類推するを得べく、殊に行政行為の手続に重大なる欠陥ある場合又は其の行為が偽証、詐欺、賄賂等犯罪たるべき行為に因り行はれたる場合に於ては当然之を取消し得べきものと認むべし。(同書二〇八頁) 以上

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